秋田銀線細工の製作技術

製作技術について

1. 製作工程
 (1) 地金について
 ・材料

  材料は銀を用いる。
  銀は金についで属性・延性に富み、科学的にも安定した材料であり、加工もしやすく魅力に富んでいる。そして、物理的にもすぐれた性質を持ち、用途はいろいろある。
 ・地金吹き(熔解)
  純銀の材料を作ることを地金吹きといい、計量しやすい小粒の銀を用いる場合は笹吹きという。
  るつぼの中で地金が溶けて表面張力で丸みもってきたら、硼砂(鉱物の一種)を少し入れ、湯(熔解した金属)の中の不純物を硼砂とともに黒鉛棒の先で取り除き、手早く立て、アケ型に注ぎ込み板状の地金にする。この時のアケ型は鉄製である。
 ・槌延べ
  できた地金は鋳物と同じ状態であり、しまりがない。
  最初から圧延ロールで延ばしたり金槌で延ばしたりすると、地金が割れたり角にひびが入ったりするので、はじめに金鋸の平で木口を叩き、次に平の部分を叩いて地金がしまった所でなまして延ばす。
 ・圧延
  ロールで各種材料を形成と延ばしを同時に行う加工をいう。
 (2) 加工工程
  銀線細工の製作は、銀の延板より銀線を作ることろから始まる。しかし、現在はコストの面などから、できあがりの銀線を地金問屋から仕入れている。
  工程は、①銀線②線撚り③ロールかけ④枠作り⑤平戸巻き⑥平戸のはめ込み⑦蠟付け⑧寄せ合わせ⑨色上げ⑩仕上げの順で行われる。
  まず、径0.2~0.3mmの細い銀線を2~3本撚り合わせて縄状の細い撚り線にする。これをロールでたたいてたいらにすると線の両脇が波状形になる。
  次に径0.5~1mmの銀線で枠を作り、ピンセットや指先で渦巻状に巻いた平戸をはめ込み、蠟付けをして一つのパーツを作る。
  そのパーツを一枚一枚を寄せ合わせて草花・動物等を立体的に形作っていく。製作した後は不純物を希硫酸で洗い落とし、色上げを行って完成する。製品に銀製細工と宝石・七宝などを組み合わせたものも作られる。

2. 工法・技術
 (1)銀蠟作り
  銀蠟は銀と真鍮を一定の割合で混合・熔融したもので、銀と真鍮の比率が10:3のものを3分蠟、10:5のものを5分蠟という。
  用途にあわせて薄い板状にしたり、かたまりをヤスリで削って粉にする。
  粉蠟は焼硼砂と水でトロトロになるまで乳鉢乳棒ですり合わせ、接合部につけて蠟付けする。この時の融点温度は650℃前後である。
  従来、秋田では粉蠟が主流であった。
 (2)平戸の巻き方
  平ロールにかけた撚り線を丸く束ねてからなまし、ほどいて必要な長さに切る。
  そして線の先をピンセットでつまんでくるくる巻き、ピンセットからはずして手で巻く。
  これを外枠線の大きさになるまで巻き、枠へピンセットではめ込む。
  また、平戸のほか唐草、のノ字、アラレ、片うずなどの小さなパーツを使用している。
 (3)製品の色仕上げ
  希硫酸の2%溶液を作り、温度を50~100度にする。そして製品のなましと同時に希硫酸に入れ、不純物を取り除いて純白にする。
  次に金棒でみがきあげ、銀の酸化防止剤を使用する。
  銀は酸化して黒ずんでくる傾向があるが、酸化防止剤の被膜で空気を遮断すると4、5年はもつ。
  しかし、長い間に参加はするので、今後の課題として研究中である。

3. 道具
 (1)設備
  ガスバーナー、手廻ロール、流し台、酸洗い容器、コンプレッサー、グラインダー、工作台、木台、金床、研磨機、整流器、ガス台、洗浄機、各種型類。
 (2)工具
  金槌、絞槌、箸、切断用鋏、る箸ヤットコ、鋸、るつぼ、やすり各種、キサゲ、ノギス、木槌、床箸、金棒ヘラ、各種鏨、木台、ヤットコ、刻印、ピンセット、板型材、線引板、芯金棒、ケイ藻土レンガ、軽石、手万力、真鍮ブラシ、歯ブラシ、筆、糸鋸刃、油砥石等。

4. 原材料
 (1)銀
  銀(99.9%)の価格は国内相場で決まり、円為替を主因に変動するもので、高騰したり下落したりすることもある。
 (2)その他の材料
  合金用貴金属、その他の貴金属。
 (3)工業用薬品
  各種メッキ液(金・銀)、硫酸、硝酸、塩酸、フラックス、硼砂、重層、ガス、木炭、植物油、シンナー、錆止め液等。

ー『お宝発見ハンドブック 秋田の宝・おらほの宝 ―地域の文化遺産発見―』秋田県教育委員会(2007)ー

製作技術に関する補足

 材料について
  国外の銀線細工は925(含有率(純度)92.5%の銀)を使用している事が多く、「銀線に純度99.9%以上の純銀を使用している」という点は、秋田銀線細工の特徴です。
  金は銀と同じく加工しやすいため、金線を使用し「金線細工」が作られたり、金線と銀線を組み合わせて一つの作品が作られることもあります。
  南ヨーロッパの金銀線細工はFiligrana(フィリグラーナ)と呼ばれ、Silver925で作られたもの、K19で作られたもの、Silver925で作ったものにgold filled(ゴールドフィルド/金張り)加工を施したものとがあるようです。
  プラチナは貴金属の中でも特に硬いため、装飾品サイズの細かい線細工加工には向いていませんが、ポルトガルではピンクゴールドやホワイトゴールド線を使用し、ダイヤモンドをあしらったハイジュエリーが製作されています。

 銀線の加工について
  現代では工賃がかかりすぎるため、出来上がった銀線を地金屋から購入し、なまし、線撚りから加工を始めることが多いです。

  製作する商品の大きさにもよりますが、一般的なアクセサリーだと 線径Ø1.0mm、Ø0.7mm、Ø0.5mm、Ø0.3mm、Ø0.2mm の純銀線を使用し加工します。

 その他の材料について
  銀線細工と組み合わせて使用される主な材料として宝石があり、中でも「真珠」をあしらった作品が多いです。

  その他では、「七宝 (金属製の下地の上に釉薬を乗せ、800度前後で焼成し焼き付けたもの)」を組み合わせた鮮やかな色合いの作品もあります。

製作工程の写真

1. 純銀線

2. 銀線なまし

3. 銀線縒り

4. 縒り線

5. ローラーがけ

6. 平戸縒り線

7. 輪郭線成形

8. 輪郭線整え

9. 平戸作り

10. 平戸入れ

11.銀ロウ塗り

12.ロウ付け

13. 釈迦玉作り

14. 釈迦玉ロウ付け

15. 硫酸洗い

16. ヘラがけ

17. 真珠のボンド付け

18. 完成

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